戦争とは、畢竟、やったことがない屑にのみ甘美なものね
イデオロギーなどくそくらえ。眼前の平和は、存外見えないものだ
素晴らしい愛国とは、口舌でやるものではない。間抜けどもも悟ったことでしょう。平和万歳
「幼女戦記」の作者の新作。現実の歴史をパロってエンタメにするのがめちゃくちゃ上手な作者さま。
今回はドイツというよりはポーランドをイメージしてるのかな?よくわかんね。中世の頃より大国に挟まれ、大国に翻弄されつづけ、宗主となるべき国も何度となく入れ替わり、自主性を保つことが極めて困難だった。第二次世界大戦ではホロコーストの主要な実行拠点にもなった。(わざわざここに輸送してから虐殺が行われたと「ブラッドランド」に書かれている)
本作は第一次大戦が終戦した後の国内秩序を守るための舞台が主人公のようだ。
同じ終戦後を描いた作品でも「パンプキンシザース」とはかなり印象が違う
終戦は、開戦と同様外国の都合だった。
共和国の頭越しに、列強同地の手打ち。
平和が「強制」される。なればこそ、塹壕貴族らは彼らを産み落とす。
「勝ち取った平和」を「全ての脅威」から死守する特務機関
というわけで、同じ戦後(から次の戦争までの期間)を描いた作品でも「戦後復興」を主眼とする部隊を描いたパンプキンシザースとこの「売国機関」ではかなり趣が異なる。こちらは「国内にいる排外主義者を殺す」ための機関で非常に後ろ向きだ。
Pumpkin Scissors(22) (月刊少年マガジンコミックス)
- 作者: 岩永亮太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/09/14
- メディア: Kindle版
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なお、同様に「強国の士官が、弱小国に技術顧問として派遣されて弱小国の立場から強国の横暴ぶりを感じ取る」作品として「軍靴のヴァルツァー」という作品もあり、私はどの作品もすごく面白いと思ってます。
- 作者: 中島三千恒
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/08/09
- メディア: コミック
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特に本作は、明らかに欧州を舞台にしていますが、この作品中で描かれる大衆の主張は、韓国の「進歩派」や、日本の安保反対運動反対運動なんかもイメージしてるみたいですね。に通じる雰囲気があるように思えます。この作品はあくまでフィクションなので現実とつなげるつもりはありませんが、こういう考え方をする人たちが力を持った状況をイメージするのには役に立つと感じます。
彼らは元々80年代の従属理論的な思想に影響を受けた人々だから、自らの経済が他国に依存するのを「悪い事」だと思っている。日本の輸出規制は完全にこの文脈で捉えられていて、だからこそ彼らは「民族経済が自立する為に努力しなければならない」的にイデオロギー的に盛り上がってしまっている。
— Kan Kimura (@kankimura) August 24, 2019
「愛国」とか「売国」って言葉に意味はない
この作品中では、お互いが「愛国」を名乗るもの同志が、相手を売国だの国益を損なう愚か者だとののしりながら殺しあう姿が描かれます。
主人公も暴徒たちもどちらも「国」は愛しているけれど「首相」が嫌いなのは同じ。それでも「国」を守るということにおいて全く正反対の立場に立つ。
「少尉、私は対外協調主義者よ。連邦のジャガイモ野郎どもは確かに運転技術が下手。でも、それだけで排外主義を叫ぶ動物どもよりは知性があるつもりだもの」
「軍人は、その。政治にかかわるなと教わっていましたので」
「正しくその通り。動物さえいなければそうあるべきだわ」
同じ言葉を使っているのに、立場によって言葉の意味が正反対に変わる。つまり、言葉で愛国とか売国とかを自称したり相手にレッテルを張ることは全く意味がないということが分かる。
「塹壕貴族」以外何も信じないパラノイアな人物が主人公、という狂った作品
この作品の主人公(階級が「少佐」なのはまぁヘルシング意識してるんかなぁ)は皮肉屋です。
自分の論理に従って「国家」を守るために行動しているのですが、その自国民から「売国機関」とののしられる。「国家」を守るために時には「国民」に向けて発砲もする。
そうした悲劇的の状況を生み出す自分たちを「オペラ座」と称したり批判を受けても涼しげな顔で「売国的愛国奴」を自称する。
自分たちを「必要悪」と割り切って国民に銃を向けるってどんな気持ちなんだろうか。
また、どうも少佐殿は「軍人のつながり」がとても大事で、そこをけなされるのが許せないようです。「塹壕貴族」=実際に戦地に赴いて生き残った兵士ってことかな?そういう「塹壕貴族」しか信じない。 仲間や軍人に対しては非常に手厚い支援を惜しまないし、たいていのことは皮肉まじりの笑顔で受け流すのに、退役軍人優遇に反対する人間を見た瞬間、修羅のような様相に代わる。
彼女は彼女で、自分の仲間を中心とした部分でしか国家というものを見てない。それ以外の者はすべて敵であり、すべてが疑うべき対象。
というわけで、この作品は、彼女を正しい人間とは全く描いていない。むしろこういう人間を特務機関のトップに据えているということ自体、それほど国が病んでいるかを示している。狂った任務を躊躇なく行える狂った人間を必要としているわけだから。
全く少佐の組織に染まってない新人士官(少尉)がこの流れにどういう影響を与えるのか
というわけでここまでは狂った国において、狂った少佐が狂った組織を率いて狂った任務を行っているというお話なのだけれど。
ここに、そういった組織の空気に染まっていない、戦争も未体験の新人少尉が配属される。
この少尉をどういう風に描くのかが今のところは全然わからない。
↓
なるほどねー。
いやはや、なるほどなるほど。これは面白い
「軍人」よりも戦場に赴かない人間の方が大義のための戦争を望むとかはありそうよな
私は自分が戦争に行かないのをわかってて「希望は、戦争」とかぬかすやつが死ぬほど嫌いなのだけれど。
この作品でもそのあたりはしっかり描かれてるな。
「平和だと?大義も忘れた屑め!」
「死守を命じた。町を守るために。突撃も命じた。町を取り戻すために。
部下が死ぬとわかってそれを命じた。美しい大義のために私の部下が死んだ」(首を横に振る)
「素晴らしいとでも思っているのか!?
屈辱程度飲み干せ。貴様らの自慰に私を突き合せるな」
これ自国の都合で武器すら持たせずに自衛隊に危険な任務をさせてる私らに向けて言ってるのかもね。
「天秤にご留意を」
この作品面白いのは、とにかく右派も左派も等しく「平和」の敵として見下しているところ。
主人公の少佐はあくまで「仲間の軍人がどうしようもない死地に追いやられないようにするために平和を維持すること」である。その平和がいびつなものであっても、大国の都合ですぐに破られるものであっても、今の平和の価値がわからない人間はすべて等しく豚と思ってる。
これはこれで一つのイデオロギーなのだけれど、それをもって右派の人間は左派よりだとののしり、左派政権は右派よりだという。この「自分のイデオロギーを起点にしてみるとすべてが偏って見える」を体現する存在がこの売国機関。
なんとも人に紹介するのが難しい作品だけど、3~5話のミステリーの仕掛けといい、ちゃんとエンタメになってて面白かったです。これは2巻も読みます。
- 作者: カルロ・ゼン,品佳直
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/02/09
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