表紙がエンノイアとハナの二人で終わるように、本作品は、エノアの物語として始まり、エノアの物語として終わった。
エリヤの話ではなかった。
それまで主人公だったエリヤは15巻から先は完全に物語から脱落する。
そして、それまでエリヤを見守っていたエノアにバトンタッチになる。
エノアは、描写不足ではあるが、息子からバトンタッチしてからはとてもいきいきしていた。
後悔だらけではあるかも知れないが己の生を全うし、ちゃんと選択をした。
SWAN SONGの尼子司のように、神様の目の前までたどり着き、ファックサインを出して神の救いを拒否した。
そういう意味で、本作品のキーマンはあくまでも
◇エンノイアとハナ
◇ソフィア
◇マーヤー VS レティア
◇地球に残った人類のために奮闘した科学者たちや、プレパテールのメンバー
だった。
15巻もの間主人公であるかのように振る舞ってきたエリヤくんは主人公ではなかった。
最終決戦の場に立つことすら無かった。向かうことすら無かった。
・・・そんなことってある?
素材は超一級品。だけれど料理の仕方はひどいの一言。 読み手が頑張ってあれもこれも補完していくしか無い
本作品は群像劇といえば聞こえは良いが、
作者が思いついた哲学や設定やキャラクターを全部詰め込み
優先順位とか構成とかをあまり決めずにどれも等しく丁寧に描こうとした作品だ。
そのせいで、グッチャグチャの落書き帳みたいになってしまっている。
絶望した人類を進化させようとしたマーヤーだけが全てを成し遂げたみたいな風になり、それ以外のキャラはみんな道半ばで消えていく。
とんだ未完成作品である。
昔読んだ時は、「すんげー。何言ってんのか全然わかんねー。でもおもしれー!!!」ってなってた。
今読むと「やりたいことはわかる。でも何なのじゃこの作品は・・・」ってなってる。
これはどちらも間違いじゃないと思う。
間違いなく、素材はどれも一級品で、そんな高級素材が惜しみなくあれもこれもとゴロゴロテーブルに並べられている。
人間ドラマとしても、世界の悲惨さを描く話としても、SFの要素としても、どれもが素晴らしい。
1話ごとに掘り下げて話をしていったら、すごく面白いネタばかりである。
これが2020年以降の作品だったら、私は1話ずつ感想を書きまくっていたかも知れない。
ただ、とにかく構成がひどい。
おかげで「ある意味」どうでもいいキャラはめちゃくちゃ丁寧に描いているのに
必要なところにヌケモレが多いと感じる。
最も重要であるはずのハナのことはほとんど描かれないまま終わってしまうし、
なぜエノアとハナがすれ違っていったのか、なぜエノアはこの道を選ぶようになったのかもわかるようでわからない。
愛情があったのは間違いないがじゃあなぜこの選択だったのか。チグハグだ。
最初と最後はちゃんと考えていたのだと思うけれど
この作者さんは一話ごとに全力投球しちゃって全体のこと忘れちゃうタイプなのかも知れない。
でも、あくまでこれは自分が一気に読んだからそう思うだけだ。
繰り返しになるが、せば1話ごとはめちゃくちゃおもしろいのだ。
まとめて読むと良くないが、作者が描こうとしたものはとにかく素晴らしかったと思う。
最終的にはいろいろと不満だらけではあるが、これほどのでかい話を最後まで描ききったのは本当にすごい。
めちゃくちゃたくさんのキャラクターを登場させ、かなりの人間を敵味方問わず丁寧に描こうとした。
キャラへの解像度なのか愛情なのか、そういうものがとても強い人なのだなあと思う。
この残酷で絶望しか無い作品を描ききったからこそ、
その後の陰がありながらも歯を食いしばって生きている人を描く作品につながっていると思う。
いずれにせよ言えることは、本作品は、この作者にしか描けない作品だと思う。
面白いかどうかは人によると思うが、それでも、この作者からしか得られない滋養があることだけは確かだ。